浮気・不倫が原因で勝手に別居したら慰謝料請求で不利になる?

文責:所長 弁護士 山澤 智昭

最終更新日:2025年01月07日

 相手の不倫が発覚した場合、「暫くは一緒に住みたくない」「距離を置いて今後のことを冷静に考えたい」などと思い、別居に至る夫婦は多いです。

 しかし、自らが勝手に別居をした(家を出て行った)ことで、不倫慰謝料請求の際に不利にならないかと心配になる方もいらっしゃるでしょう。

 今回は「相手の浮気・不倫が理由で勝手に別居した場合に、離婚や不倫慰謝料請求にどのような影響があるのか」について解説します。

1 夫婦の同居義務と不倫が原因の別居について

 民放752条は、夫婦の同居義務を規定しています。すなわち、夫婦は原則として一緒に生活する義務が規定されているのです。

民放752条
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

 仮に夫婦の一方が「一人になりたいから」「自分が好きなように給料を使いたいから」などという理由で勝手に家を出ていけば、上記の同居義務違反となるだけでなく、悪意の遺棄(770条1項2号)となり、離婚事由にもなります。

 このように見ていくと、「例え相手方の不倫が原因であっても、喧嘩の末に勝手に家を出ていけば、離婚や慰謝料請求の際に不利に考慮されてしまうのでは」と思われがちです。

 しかし、実際にはそうなりません。
 夫婦は様々な事情で一緒に住むことができない事態が想定できます。夫婦仲の悪化だけでなく、単身赴任などで一緒に生活できない夫婦もいるでしょう。

 このような事情に対応するため、法律は同居義務を課しつつも、別居を正当化する事情や相互の合意があれば義務違反とはならないとしています。

 したがって、別居に正当事由があるかどうかが問題となります。

 同居義務違反の正当事由(同居義務違反にならないケース)としては、以下が挙げられます。

 

・単身赴任、長期の出張

・別居婚、親の介護、自身の病気の治療など、互いに合意がある必要な別居

相手からのDV、モラハラがある

・夫婦関係が破綻している、不倫があったなどの場合に互いに合意をした上での別居

 

 配偶者によるDV、モラハラなどがあれば、相手の合意なく家を出て行ったとしても正当事由があるといえます。これは、当事者の身の安全を確保するという意味でも必要な措置でしょう。

 一方、夫婦関係が冷え切っている、配偶者が浮気をしていて家を出て行きたいというケースでは、互いに合意さえあれば正当事由として認められ、同居義務違反になることはないでしょう。
(何の話し合いもなく急に家を出てしまうと、同居義務違反になってしまう可能性があります。)

 しかし、「不倫を止める様子がなく毎日帰りが遅い、家庭内別居をしているような状態だ」「不倫について言い争いになった時、出て行けと怒鳴られた」などというケースでは、合意のない別居も正当事由として認められることがあります。

 当初から離婚を検討していた夫婦であれば、家庭内での喧嘩はよくあることかもしれません。

 この喧嘩の原因に不倫、DV、モラハラなどの問題があり、これによって出て行ったのであれば、正当事由として問題ないでしょう。

2 別居する際の注意点

 このように、事情によっては勝手に別居をしても同居義務に違反することはありません。
 しかし、不倫が理由で別居する際には、気をつけるべき点もあります。

 と言うのも、実際には同居義務違反とならない場合でも、相手が同居義務違反を主張する可能性があるからです。

 自身の不倫等の責任は棚にあげて、家を出て行ったことに対する責任を追求してくるケースもあるのです。

 正当な金額の不倫慰謝料請求等をする場合、不倫があった・不倫が原因で別居となったという証拠が必要です。

 しかし、ご自身が家を出ていくと、別居中に不倫の証拠を全て破棄されてしまう可能性があります。
 そうなると、不倫の事実や別居の正当性を証明することが難しくなります。

 仮に別居の原因が相手の浮気にあることを証明できず、別居が悪意の放棄と見做されてしまった場合には、逆に相手から離婚慰謝料を請求されたり、婚姻費用分担請求で不利になったりする可能性があります。

3 同居義務違反とならないための工夫

 上記のように、正当事由があると思われる別居でも、勢いで家を出てしまうと、離婚・慰謝料請求時に不利になる可能性があります。
 互いの合意がない場合、別居を正当化できる事情を証明できないと、相手から同居義務違反が主張された時に対処できません。

 同居義務違反を主張されないように、されたとしても反論できるように、別居前には以下のような対策が必要です。

・不倫等の相手の責任に関する事情・証拠を集めておく

・別居のための合意書を作成しておく

 家を出ると、配偶者の浮気の証拠を集めるのも難しくなります。
 そこで、将来的な慰謝料請求や離婚も想定して、早めに証拠を集めておくようにしましょう。

 不倫の証拠は、不倫相手と肉体関係があったことを示す証拠が一番有効です。ラブホテルに入る際の写真や性行為があったことを連想させるメール、写真、動画のやり取りなども役立ちます。

 2人でのデート写真、普段のメールのやりとり、クレジットカードの履歴などの直接的に肉体関係を証明しないものであったとしても、他の証拠と組み合わせることで間接的に証明することができる証拠もあるため、できるだけ多くの証拠を押さえておきましょう。

 また、今すぐに出て行きたいという衝動を抑え、別居のための合意書を作成するのも有効です。
 別居することに対しお互いが同意している場合には、文書で作成しておくことで、同居義務違反が問われることはなくなります。

 別居に口約束で合意していたとしても、いざ慰謝料の請求となると「合意していない。勝手に出て行った」と言われてしまうことがあります。

 念の為、日付と証明入りの文書でまとめておくと、安全対策としてはかなり有効でしょう。

4 別居と慰謝料増減の関係

 最後に、相手の浮気で別居に至った場合、その後の不倫慰謝料額についてご説明します。

⑴ 別居は慰謝料の金額に影響する?

 配偶者の不倫が原因で家を出て行った場合、別居の事実が不倫慰謝料請求に影響することはあります。
 しかし、良い影響だけでなく悪い影響を与えることもあるので、増額されるケース・減額されてしまうケースの両方をご説明します。

 

増額されるケース

 不倫慰謝料の金額に関しては、不倫そのものの事情(回数・期間)だけでなく、不倫前後の夫婦関係や婚姻生活に関する事情も考慮されます。
 その上で、不倫された配偶者にとって精神的苦痛が重いと判断されれば、増額事情として考慮します。

 例えば、不倫発覚後すぐに別居に至った場合、不倫発覚前は夫婦関係が良好だった場合には、別居の直接的原因は「不倫」と判断できます。

 この場合は、不倫が婚姻生活を破壊した理由であり、離婚を前提とした別居に至ったならば精神的苦痛も大きいと判断できますので、増額事情として考えることができます。

 また、不倫という責任があるにも関わらず、家を出て行ったことを理由に相手が「生活費を一切渡さない」などの対応をとれば、それは相手方による悪意の遺棄と判断され、増額事情として判断できるでしょう。

 

減額されるケース

 別居が原因で減額される可能性もあります。

 具体的には、不倫の前から夫婦関係が破綻し別居していた場合です。
 不倫の前から夫婦関係が破綻していた場合には、法的保護に値する婚姻生活を観念できません。

 そのため、そもそも慰謝料請求が認められない可能性があります。

 もっとも、不倫時に既に別居していたとしても、関係修復のための別居も考えられます。
 夫婦関係の改善が見込める段階での別居は、依然守るべき婚姻関係があるとして、慰謝料請求が認められるでしょう。

 ただし、別居がない場合の不倫慰謝料より減額される可能性があります。

⑵ 別居→離婚した場合の慰謝料相場

 不倫を原因とする別居後の不倫慰謝料に関しては、不倫の回数や期間、夫婦の婚姻年数、子どもの有無、不倫前後の夫婦関係の状況、支払う側の資産、別居期間(その期間中の婚姻費用の支払いの有無)などが総合的に考慮されます。

 不倫慰謝料の具体的な金額としては、50万円〜300万円程度が相場といわれています。
 もっとも、慰謝料に関する金額は個別事情によって大きく左右されるため、これ以下になることもあれば、この金額以上になることもあります。

 実際のご自身のケースでいくらが妥当であるのかを知りたい場合には、弁護士に事情を話し、請求できそうな慰謝料額を計算してもらうことをおすすめします。

5 別居を不利にさせないためにも弁護士に相談を

 別居をするに至った原因に配偶者の不倫がある場合には、同居義務違反となることは少ないです。
 しかし、相手からもさまざまな主張・反論が行われる可能性がありますので、慰謝料請求や離婚で不利にならないように、先に弁護士に相談しておくことがおすすめです。

 不倫慰謝料請求でお悩みの方は、当事務所へご相談ください。

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